- EBITDA=営業利益+減価償却費。買い手は「毎年生み出す現金」で見る
- 中小企業の倍率相場は3〜6倍。非流動性・規模・キーマンリスクで上場企業より低い
- EBITDA×倍率は事業価値。借入を引き現預金を足したものが株式価値
EBITDAの計算
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費(厳密には税引前利益+支払利息+減価償却費ですが、中小企業では営業利益ベースで十分です)
減価償却費を足し戻す理由は、それが「現金が出ていかない費用」だからです。過去に買った機械の費用配分にすぎず、今年の現金収支には影響しません。買い手は「この会社が毎年生み出す現金」を知りたいので、EBITDAを使います。設備の多い製造業や運送業は、営業利益よりEBITDAで見たほうが実力が分かります。
M&Aでは、役員報酬の適正化や一過性損益を除いた「調整後EBITDA」を使います。この調整は役員報酬の調整で詳しく解説しています。
倍率の相場と、上場企業より低い理由
上場企業の類似会社倍率は8〜15倍がよく見られますが、中小企業M&Aの実務レンジは3〜6倍です。差の理由は3つあります。
第一に非流動性ディスカウント。非上場株は簡単に売れないので、その分安くなります。第二にサイズリスク。規模が小さいほど、一社の顧客喪失や社長の退任が業績に与える影響が大きく、リスクが高いと見られます。第三にキーマンリスク。中小企業では経営者個人に事業が依存している度合いが高く、承継後の利益の継続性が割り引かれます。
| 業種 | EV/EBITDA倍率(低〜中〜高) |
|---|---|
| SaaS・ストック型IT | 6.0〜8.0〜12.0倍 |
| 調剤薬局/不動産管理 | 4.0〜5.5〜7.0倍 |
| IT受託 | 4.0〜5.5〜8.0倍 |
| 製造業/介護/人材/ビルメン | 3.5〜4.5〜6.0倍 |
| 卸売/小売 | 3.0〜4.0〜5.0倍 |
| 建設/運送/飲食/専門サービス | 2.5〜3.5〜5.0倍 |
事業価値から株式価値へ:ネットデットを引く
EBITDA × 倍率で出るのは「事業価値(EV)」です。売り手が実際に受け取る株式価値は、そこから有利子負債を引き、現預金を足します。
株式価値 = EBITDA × 倍率 − 有利子負債 + 現預金
「有利子負債 − 現預金」をネットデットと呼びます。現預金が借入より多い会社はネットキャッシュとなり、その分が株式価値に上乗せされます。
計算例
営業利益2,800万円、減価償却費900万円、役員報酬の適正化1,200万円、有利子負債9,000万円、現預金6,000万円の製造業。
| 営業利益 | 28,000 |
| + 役員報酬の適正化 | 12,000 |
| + 減価償却費 | 9,000 |
| 調整後EBITDA | 49,000 |
| 事業価値(× 4.5倍) | 220,500 |
| − 有利子負債 | 90,000 |
| + 現預金 | 60,000 |
| 株式価値 | 190,500 |
単位は千円。倍率が3.5倍なら1億4,150万円、6倍なら2億6,400万円です。同じ会社を年買法で計算すると2億8,800万円になり、この差が「売り手の期待」と「買い手の回収目線」の差です。
倍率を上げるためにできること
倍率はレンジの中で会社の質によって動きます。ストック型の売上比率を上げる、顧客を分散させる、社長以外の幹部を育てる、業績の成長トレンドを作る。これらは1〜3年の取り組みですが、倍率が1倍上がればEBITDA5,000万円の会社で5,000万円の差になります。
企業価値シミュレーターの詳細モードでは、こうした定性要因を選ぶと倍率がレンジ内でどう動くかを確認できます。
よくある質問
EBITDAとキャッシュフローは何が違いますか?
EBITDAは設備投資や運転資本の増減、税金を考慮していない「おおまかな現金創出力」です。フリーキャッシュフローはそれらを引いた実際の余剰現金で、DCF法で使います。
減価償却費はどこを見れば分かりますか?
損益計算書の販管費内訳と、製造業なら製造原価報告書の両方に計上されています。合計を使ってください。勘定科目内訳明細書や法人税申告書の別表16でも確認できます。
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