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会社売却の相場は「利益の何倍」か|中小企業の株式価値の決まり方

「うちの会社はいくらで売れるのか」。この問いに対する実務の答えは、意外と単純な式に集約されます。時価純資産に、実態の利益の数年分を上乗せする。あるいは、償却前利益の数倍から借入を引く。本記事では、中小企業M&Aの現場で実際に使われている相場の考え方と、同じ利益でも価格が2倍違う理由を解説します。

株式会社Tsugiya M&A仲介の実務より | 更新 2026-09-20
この記事の要点
  1. 中小企業の売却価格は「時価純資産+利益の2〜5年分」か「EBITDAの3〜6倍−借入+現預金」で決まる
  2. 決算書の利益ではなく、役員報酬などを直した「調整後」の利益で評価される
  3. 同じ利益でも、属人性・顧客集中・ストック性で価格は1.5〜2倍変わる

中小企業の売却価格は、2つの式で決まる

時価純資産簿価を時価に直す+調整後営業利益役員報酬等を調整×営業権年数業種で1〜7年=株式価値
純資産+営業権法(年買法)の式

上場企業のM&Aでは複雑な評価が行われますが、年商数億〜数十億円の中小企業の売却では、実務上ほぼ次の2つの式が交渉の土台になります。

① 純資産+営業権法(年買法)= 時価純資産 + 調整後営業利益 × 2〜5年
② EBITDA倍率法= 調整後EBITDA × 3〜6倍 − 有利子負債 + 現預金

①は売り手側の会計士や仲介会社がよく使い、「会社が持っている資産に、のれん(営業権)として利益の数年分を乗せる」という直感的な考え方です。②は買い手や金融機関が使い、「投資した金額を何年で回収できるか」という視点です。両方を計算して、その幅の中で価格が決まります。

年数や倍率は業種によって異なります。たとえば製造業ならEBITDAの3.5〜6倍、飲食業なら2.5〜5倍、調剤薬局なら4〜7倍が実務レンジです。業種別の相場一覧にまとめています。

「調整後」の利益が、価格を大きく左右する

式の中で最も重要なのは「調整後」という言葉です。決算書の営業利益をそのまま使うのではなく、承継後の実態に合わせて修正した利益で評価します。

典型的な調整は、オーナーの役員報酬です。年間2,400万円の役員報酬を取っているオーナーの後任を1,200万円で雇えるなら、差額の1,200万円は買い手にとって利益です。営業権年数3年なら、この調整だけで株式価値が3,600万円上がります。ほかに、節税目的の生命保険料、社長の私的な経費、親族への相場より高い家賃なども「承継後になくなる費用」として利益に戻します。

逆に、補助金や固定資産売却益のような一過性の利益は除きます。買い手は「来年も続く利益」だけを評価するからです。詳しくは役員報酬の調整で会社の価値はどう変わるかで計算例を示しています。

純資産も「時価」に直す

貸借対照表の純資産は簿価です。売却時には、土地や有価証券の含み損益、保険積立金の解約返戻金との差額、回収できない売掛金や売れない在庫、未計上の退職金債務などを反映した「時価純資産」に直します。

地方の製造業などでは、数十年前に取得した土地の含み益が数千万円あり、時価純資産が簿価より大きく上がるケースが珍しくありません。逆に、不良在庫や簿外の退職金が見つかって下がることもあります。売却前に自社の時価純資産を把握しておくことは、交渉で不利にならないための最低限の準備です。

写真はイメージです

同じ利益でも価格が2倍違う理由

営業利益3,000万円の会社が2社あっても、片方は1億円、もう片方は2億円で売れることがあります。差を生むのは、業種レンジのどこに位置するかを決める「会社の質」です。

価格を押し上げるのは、継続契約・リピートによるストック型の売上、許認可や技術による参入障壁、社長以外に事業を回せる幹部の存在、特定顧客に偏らない売上構成、直近3期の成長傾向です。押し下げるのは、受注や技術が社長個人に集中していること、上位1社への依存が売上の30%を超えていること、近く大きな設備更新が必要なこと、業績の下降傾向です。

買い手は「社長がいなくなっても利益が続くか」を見ています。属人性の解消は、売却準備の中で最も価値に効く取り組みです。

現預金と借入金は、そのまま価格に乗る

EBITDA倍率法やDCF法で計算されるのは「事業価値」で、株主が受け取る「株式価値」はそこから有利子負債を引き、現預金を足したものです。つまり借入1億円は価格から1億円引かれ、現預金5,000万円は5,000万円足されます。

売却の1〜2年前から借入を返済し、現預金を厚くしておくと、それだけで手取りが増えます。役員借入金(社長からの貸付)も整理が必要で、返済するか債権放棄するかで税務も変わるため、早めに専門家に相談してください。

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ここまでの考え方をそのまま実装したのが、Tsugiyaの企業価値シミュレーターです。売上・営業利益・減価償却費・役員報酬・純資産・現預金・有利子負債の7項目と業種を入れると、3手法の株式価値レンジと計算過程が表示されます。無料・登録不要で、入力データは端末内で計算されます。

結果は簡易試算ですが、「どの要因で価格が下がっているか」が見えるので、売却の準備を何から始めるべきかが分かります。売るかどうか決めていなくても、まず数字を知ることをおすすめします。

よくある質問

会社売却の相場は売上の何倍ですか?

売上倍率は業種差が大きく実務ではあまり使いません。中小企業では「時価純資産+営業利益の2〜5年分」または「EBITDAの3〜6倍」で考えるのが一般的です。SaaSなどストック型事業は例外的に売上(ARR)倍率が使われます。

従業員5名、営業利益500万円の会社でも売れますか?

売れます。中小企業M&Aの多くは従業員10名以下です。価格は純資産+営業権法で計算され、営業利益500万円なら営業権は1,000〜2,500万円が目安、そこに時価純資産が加わります。

相場より高く売るにはどうすればいいですか?

役員報酬などの正常収益力調整を正しく行うこと、属人性を減らすこと、借入を減らして現預金を増やすこと、そして複数の買い手候補に打診して競争環境を作ることです。準備には1〜3年かかるものもあります。

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