- 非上場株式の株価は「税金計算用(相続税評価)」と「売買用(M&A)」の2種類
- 相続税評価は類似業種比準・純資産価額・配当還元の3方式。のれんはほぼ反映されない
- 節税の「株価対策」と売却の「価値向上」は向きが逆。承継方針を先に決める
非上場株式の株価は「目的」で2種類に分かれる
上場株式は市場価格がありますが、非上場株式(税法上は「取引相場のない株式」)には値段が付いていません。そのため、必要な場面で計算によって価値を決めます。
税務上の株価(相続税評価額)は、相続税・贈与税を計算するための株価です。国税庁の「財産評価基本通達」という統一ルールに従って計算するので、誰が計算しても同じ結果になることが重視されます。
M&Aの株価(売買価格)は、売り手と買い手が合意する価格です。年買法・EBITDA倍率法・DCF法などで目安を出し、最後は交渉で決まります。買い手にとっての将来の稼ぎや、相乗効果(シナジー)も反映されます。
相続税評価の3つの方式
財産評価基本通達では、株式を取得する人と会社の規模によって評価方式が決まります。
類似業種比準方式:上場している同業種の平均株価をもとに、1株あたりの「配当」「利益」「純資産」の3要素を比べて評価します。さらに、会社規模に応じて大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5を掛けて割り引きます。
純資産価額方式:会社の資産と負債を相続税評価額で評価し直して純資産を計算します。含み益がある場合は、その含み益に対する法人税等相当額(37%)を差し引きます。
配当還元方式:経営に関与しない少数株主(同族株主以外)が取得する場合に使う、配当金をもとにした簡便な方式です。
オーナー一族が取得する場合は原則的評価として、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式(または両方式の併用)、中会社は両方式の併用で評価します。会社規模は従業員数・総資産・売上高で判定します。土地や株式の保有割合が高い会社などは「特定の評価会社」として別の扱いになります。詳細は必ず税理士に確認してください。
M&Aの株価のほうが高くなりやすい理由
一般に、業績の良い会社ほどM&Aの株価は相続税評価額より高くなります。理由は主に3つです。
1つ目は将来の収益力(のれん)の扱いです。M&Aでは利益の数年分を営業権として上乗せしますが、相続税評価の純資産価額方式ではのれんはほぼ評価されません。2つ目は割引の有無です。類似業種比準方式は上場会社の株価に0.5〜0.7を掛けて計算するため、低めに出やすくなっています。3つ目は調整の違いです。M&Aではオーナーの過大な役員報酬などを利益に戻して評価しますが、税務評価は決算書の数字をそのまま使います。
逆に、利益が小さく含み益のある不動産を多く持つ会社などでは、税務上の株価のほうが高くなることもあります。
「株価対策」と「売却準備」は向きが逆
ここが実務で最も注意すべき点です。相続・贈与の前に行う「自社株対策」は、役員退職金の支給や利益の圧縮などで税務上の株価を下げる取り組みです。一方、M&Aの売却準備は、利益を正しく見せ、借入を減らし、属人性を解消して株価を上げる取り組みです。
親族内承継と第三者への売却のどちらに進むかで、打つべき手が反対になります。方針を決めないまま節税目的で利益を圧縮すると、後で売却を選んだときに評価が下がる原因になります。承継の方向性を早めに決め、税理士とM&Aの専門家の両方に相談するのが安全です。
親族・役員・会社への売買で気をつけること
第三者との間で合理的に交渉して決めた価格は、原則としてその価格が時価として扱われます。一方、親族や同族会社、役員など特別な関係のある相手に売買する場合、税務上の時価より著しく低い価格で譲渡すると、差額が贈与とみなされたり、買った会社側に受贈益が生じたりすることがあります。
従業員や役員への承継(MBO)や、持株会社への株式移転を検討する場合は、M&Aの株価と税務上の株価の両方を把握したうえで、税理士と価格を決めてください。
まずM&Aの株価の目安を知る
顧問税理士から相続税評価額を聞いたことはあっても、M&Aならいくらになるかを知らない経営者は少なくありません。選択肢を比べるには、両方の数字が必要です。
このサイトの株価算定シミュレーターでは、決算書の7項目と業種を入れるだけで、M&A実務の3手法(年買法・EBITDA倍率法・DCF法)による株式価値のレンジを確認できます。相続税評価額は計算しないため、税務上の株価は税理士にご確認ください。
よくある質問
税理士が出した自社株評価で会社を売ることはできますか?
売買自体は可能ですが、第三者への売却では通常その価格より高く売れる可能性があります。相続税評価額はあくまで税金計算用の株価なので、売却価格の交渉ではM&Aの評価方法で目安を出すのが一般的です。
類似業種比準方式の株価はどうすれば下がりますか?
配当・利益・純資産の3要素が下がると株価も下がるため、役員退職金の支給などで利益を減らす対策が知られています。ただし、M&Aで売却する場合は利益を減らすと売却価格も下がるため、承継の方針を決めてから検討してください。
非上場株式を個人から会社に売るときの価格は?
同族会社などへの売買では、所得税法・法人税法上の時価を踏まえて価格を決める必要があります。時価より著しく低い価格だと課税関係が生じることがあるため、税理士に確認してください。
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