Industry Benchmark

製造業の会社売却相場

製造業(部品・金属加工・食品加工など)の株式価値は、中小企業M&Aの実務では EBITDAの3.5〜6.0倍、または 時価純資産+実態利益の2〜5年分 がレンジです。この記事では、その根拠と買い手が見るポイント、計算例、売却前にできる準備を解説します。

EV/EBITDA倍率
3.56.0
中央 4.5倍
営業権年数
25
中央 3年
DCF割引率
10〜14%
非上場・小規模の目安
製造業のイメージ
写真はイメージです
この記事の要点
  1. 製造業のEBITDA倍率は3.5〜6.0倍、営業権は利益の2〜5年分が実務レンジ
  2. 自社で図面・工程を設計できる技術力と、それを担う技術者の在籍年数
  3. 社長が営業と技術見積りを一人で担っている場合、営業権年数は下限(2年)に寄る

相場の見方:なぜ「3.5〜6.0倍」なのか

全業種の下限 2.5倍上限 12.0倍3.5倍中央 4.5倍6.0倍
EBITDA倍率:全業種の中での位置

非上場の中小企業は、上場企業の類似会社倍率よりも低い水準で取引されます。株式をすぐに換金できない「非流動性」と、規模が小さいことによる事業リスクが織り込まれるためです。製造業の場合、業界の平均的な成長性、参入障壁、属人性の傾向から、EBITDA倍率は3.5〜6.0倍、純資産に上乗せする営業権は実態利益の2〜5年分がレンジになります。

重要なのは、レンジのどこに位置するかは会社ごとの「質」で決まるという点です。同じ営業利益3,000万円でも、下限と上限では株式価値が1.5〜2倍違います。以下の評価ポイントは、その位置を決める要因です。

買い手は誰か

同業の大手・中堅メーカー(生産能力と技術者の獲得)、商社(内製化)、投資ファンド(ロールアップ)、異業種(サプライチェーン確保)。買い手の種類によって重視する点が変わるため、「誰に売るか」で価格は変わります。

評価を押し上げるポイント

  • 自社で図面・工程を設計できる技術力と、それを担う技術者の在籍年数
  • 特定の大口顧客に偏らない受注構成(上位1社が20%未満なら高評価)
  • 設備の更新状況。減価償却が進んだ古い設備は「買い手が更新費用を負担する」前提で減額される
  • ISO・業界認証、特殊工程(熱処理・めっき・精密加工)など参入障壁

ディスカウント要因

  • 社長が営業と技術見積りを一人で担っている場合、営業権年数は下限(2年)に寄る
  • 主力設備の更新に数千万円かかる見込みなら、その額はほぼそのまま価格から引かれる
  • 仕掛品・原材料の棚卸資産に不良在庫が含まれていると時価純資産が減額される

計算例:製造業・売上4.20億円の会社

売上高420,000千円、営業利益28,000千円、減価償却費9,000千円、役員報酬24,000千円(承継後の適正水準12,000千円)、純資産150,000千円、現預金60,000千円、有利子負債90,000千円のモデルケースで試算します。

150,000時価純資産+120,000調整後営業利益×3年270,000株式価値(営業権法・中央)単位:千円
純資産+営業権法の中央値まで
正常収益力の調整
営業利益28,000
+ 役員報酬の適正化(24,000 − 12,000)12,000
調整後営業利益40,000
+ 減価償却費9,000
調整後EBITDA49,000
純資産+営業権法
純資産 150,000 + 調整後営業利益 × 2年230,000
純資産 150,000 + 調整後営業利益 × 3年270,000
純資産 150,000 + 調整後営業利益 × 5年350,000
EBITDA倍率法(ネットデット 30,000)
EBITDA × 3.5倍 − ネットデット141,500
EBITDA × 4.5倍 − ネットデット190,500
EBITDA × 6.0倍 − ネットデット264,000

この会社の株式価値の目安は 1.91億円 〜 2.70億円(各手法の中央値)。役員報酬の適正化だけで調整後利益が12,000千円増え、営業権法では中央値で36,000千円分、価値が上がっています。単位:千円。

売却前にできる3つの準備

  1. 主要取引先との基本契約書を整備し、取引の継続性を書面で示せるようにする
  2. 社長しか知らない見積り根拠・工程ノウハウを図面・作業標準に落とす(属人性の解消)
  3. 遊休設備・不良在庫を売却前に整理し、貸借対照表を軽くしておく

準備には1〜3年かかるものもあります。売るかどうか決めていなくても、いまの評価額と「どの要因で下がっているか」を知ることが、承継の選択肢を広げます。

製造業の売却でよくある質問

設備が古い製造業でも売れますか?

売れます。設備の更新費用は価格に織り込まれますが、技術者と顧客基盤に価値を見出す買い手は多く、特に人手不足の大手メーカーは「技術者ごと」の買収に前向きです。

従業員10名以下の町工場でも対象になりますか?

対象です。営業利益1,000万円前後でも、特殊工程や継続顧客があれば同業からの引き合いがあります。純資産+営業権法での評価が中心になります。

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