- 卸売業のEBITDA倍率は3.0〜5.0倍、営業権は利益の2〜4年分が実務レンジ
- 仕入先との独占・優先販売権や代理店契約の有無
- メーカー直販・ECの拡大で中抜きされるリスクを買い手はディスカウント要因として見る
相場の見方:なぜ「3.0〜5.0倍」なのか
非上場の中小企業は、上場企業の類似会社倍率よりも低い水準で取引されます。株式をすぐに換金できない「非流動性」と、規模が小さいことによる事業リスクが織り込まれるためです。卸売業の場合、業界の平均的な成長性、参入障壁、属人性の傾向から、EBITDA倍率は3.0〜5.0倍、純資産に上乗せする営業権は実態利益の2〜4年分がレンジになります。
重要なのは、レンジのどこに位置するかは会社ごとの「質」で決まるという点です。同じ営業利益3,000万円でも、下限と上限では株式価値が1.5〜2倍違います。以下の評価ポイントは、その位置を決める要因です。
買い手は誰か
同業卸(商圏・商材の拡大)、メーカー(販路の獲得)、小売(仕入の内製化)、投資ファンド。買い手の種類によって重視する点が変わるため、「誰に売るか」で価格は変わります。
評価を押し上げるポイント
- 仕入先との独占・優先販売権や代理店契約の有無
- 得意先の分散と与信管理の状況
- 粗利率と在庫回転率。在庫が重い卸は運転資本負担を差し引かれる
- 物流拠点・配送網の効率と承継可否
ディスカウント要因
- メーカー直販・ECの拡大で中抜きされるリスクを買い手はディスカウント要因として見る
- 滞留在庫・回収不能債権は時価純資産で必ず減額される
- 社長個人の人脈で仕入先・得意先を維持している場合は営業権が短くなる
計算例:卸売業・売上9.00億円の会社
売上高900,000千円、営業利益30,000千円、減価償却費5,000千円、役員報酬24,000千円(承継後の適正水準15,000千円)、純資産200,000千円、現預金90,000千円、有利子負債120,000千円のモデルケースで試算します。
| 正常収益力の調整 | |
|---|---|
| 営業利益 | 30,000 |
| + 役員報酬の適正化(24,000 − 15,000) | 9,000 |
| 調整後営業利益 | 39,000 |
| + 減価償却費 | 5,000 |
| 調整後EBITDA | 44,000 |
| 純資産+営業権法 | |
| 純資産 200,000 + 調整後営業利益 × 2年 | 278,000 |
| 純資産 200,000 + 調整後営業利益 × 3年 | 317,000 |
| 純資産 200,000 + 調整後営業利益 × 4年 | 356,000 |
| EBITDA倍率法(ネットデット 30,000) | |
| EBITDA × 3.0倍 − ネットデット | 102,000 |
| EBITDA × 4.0倍 − ネットデット | 146,000 |
| EBITDA × 5.0倍 − ネットデット | 190,000 |
この会社の株式価値の目安は 1.46億円 〜 3.17億円(各手法の中央値)。役員報酬の適正化だけで調整後利益が9,000千円増え、営業権法では中央値で27,000千円分、価値が上がっています。単位:千円。
売却前にできる3つの準備
- 仕入先・得意先との契約書を整備し、継続性を書面化する
- 在庫の実地棚卸と滞留在庫の処分で貸借対照表を整える
- 粗利率の高い商材・得意先を分析し、収益構造を説明できるようにする
準備には1〜3年かかるものもあります。売るかどうか決めていなくても、いまの評価額と「どの要因で下がっているか」を知ることが、承継の選択肢を広げます。
卸売業の売却でよくある質問
売上は大きいが利益率が低い卸でも評価されますか?
評価は利益ベースなので売上規模だけでは上がりませんが、販路・仕入権に価値を見出す買い手は多く、純資産の厚みも評価されます。
在庫が多いと不利ですか?
適正在庫ならネットデットの計算で不利にはなりませんが、滞留在庫は時価純資産で減額されるため、事前の整理が有効です。
卸売業の売却相場、自社の場合は?
決算書の数字を入れるだけで、この記事と同じ倍率・年数で3手法の株式価値レンジを算定できます。結果をもとに、Tsugiyaが無料で実際の相場感と準備をお伝えします。全国対応、オンライン面談可、秘密厳守。
まだ売ると決めていない方へ:決算書チェックリスト(PDF)と承継準備ロードマップ(Excel)を無料で配布しています。