- 小売業のEBITDA倍率は3.0〜5.0倍、営業権は利益の1〜3年分が実務レンジ
- 立地と賃借条件(賃料水準・契約残存期間・承継可否)
- 自社物件でなく賃借の場合、貸主が譲渡に応じないと店舗を引き継げない
相場の見方:なぜ「3.0〜5.0倍」なのか
非上場の中小企業は、上場企業の類似会社倍率よりも低い水準で取引されます。株式をすぐに換金できない「非流動性」と、規模が小さいことによる事業リスクが織り込まれるためです。小売業の場合、業界の平均的な成長性、参入障壁、属人性の傾向から、EBITDA倍率は3.0〜5.0倍、純資産に上乗せする営業権は実態利益の1〜3年分がレンジになります。
重要なのは、レンジのどこに位置するかは会社ごとの「質」で決まるという点です。同じ営業利益3,000万円でも、下限と上限では株式価値が1.5〜2倍違います。以下の評価ポイントは、その位置を決める要因です。
買い手は誰か
同業チェーン(出店の代替)、メーカー・卸(販路の垂直統合)、地域の有力企業、EC事業者(実店舗の獲得)。買い手の種類によって重視する点が変わるため、「誰に売るか」で価格は変わります。
評価を押し上げるポイント
- 立地と賃借条件(賃料水準・契約残存期間・承継可否)
- 店舗ごとの損益と、不採算店の有無
- 会員・顧客データ、EC比率などリピート構造
- フランチャイズ加盟の場合は本部の承諾条件
ディスカウント要因
- 自社物件でなく賃借の場合、貸主が譲渡に応じないと店舗を引き継げない
- 社長の個人的な接客・目利きに依存している専門店は属人性が高い
- ECとの競合で商圏が縮小しているカテゴリは倍率が下がる
計算例:小売業・売上4.00億円の会社
売上高400,000千円、営業利益16,000千円、減価償却費6,000千円、役員報酬15,000千円(承継後の適正水準10,000千円)、純資産60,000千円、現預金30,000千円、有利子負債50,000千円のモデルケースで試算します。
| 正常収益力の調整 | |
|---|---|
| 営業利益 | 16,000 |
| + 役員報酬の適正化(15,000 − 10,000) | 5,000 |
| 調整後営業利益 | 21,000 |
| + 減価償却費 | 6,000 |
| 調整後EBITDA | 27,000 |
| 純資産+営業権法 | |
| 純資産 60,000 + 調整後営業利益 × 1年 | 81,000 |
| 純資産 60,000 + 調整後営業利益 × 2年 | 102,000 |
| 純資産 60,000 + 調整後営業利益 × 3年 | 123,000 |
| EBITDA倍率法(ネットデット 20,000) | |
| EBITDA × 3.0倍 − ネットデット | 61,000 |
| EBITDA × 4.0倍 − ネットデット | 88,000 |
| EBITDA × 5.0倍 − ネットデット | 115,000 |
この会社の株式価値の目安は 88百万円 〜 1.02億円(各手法の中央値)。役員報酬の適正化だけで調整後利益が5,000千円増え、営業権法では中央値で10,000千円分、価値が上がっています。単位:千円。
売却前にできる3つの準備
- 店舗別損益を整備し、不採算店の閉鎖・改善を先に進める
- 賃貸借契約の譲渡条項を確認し、貸主との関係を良好にしておく
- 顧客データ・会員数・リピート率を整理する
準備には1〜3年かかるものもあります。売るかどうか決めていなくても、いまの評価額と「どの要因で下がっているか」を知ることが、承継の選択肢を広げます。
小売業の売却でよくある質問
1店舗の専門店でも買い手はつきますか?
つきます。特に食品・自動車・眼鏡・ペットなど専門性の高い業態は、同業チェーンが新規出店の代わりに買収します。
店舗物件が自社所有だと評価は上がりますか?
不動産の含み益は時価純資産に加算されます。不動産を切り離して事業だけ譲渡する選択肢も検討できます。
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