Industry Benchmark

IT・ソフトウェア受託開発の会社売却相場

IT・ソフトウェア受託開発・SESの株式価値は、中小企業M&Aの実務では EBITDAの4.0〜8.0倍、または 時価純資産+実態利益の2〜5年分 がレンジです。この記事では、その根拠と買い手が見るポイント、計算例、売却前にできる準備を解説します。

EV/EBITDA倍率
4.08.0
中央 5.5倍
営業権年数
25
中央 3年
DCF割引率
10〜14%
非上場・小規模の目安
IT・ソフトウェア受託開発のイメージ
写真はイメージです
この記事の要点
  1. IT・ソフトウェア受託開発のEBITDA倍率は4.0〜8.0倍、営業権は利益の2〜5年分が実務レンジ
  2. エンジニアの人数・平均年齢・離職率
  3. キーエンジニアがM&Aを機に離職するリスクを買い手は最も警戒する(ロックアップ条件が付くことが多い)

相場の見方:なぜ「4.0〜8.0倍」なのか

全業種の下限 2.5倍上限 12.0倍4.0倍中央 5.5倍8.0倍
EBITDA倍率:全業種の中での位置

非上場の中小企業は、上場企業の類似会社倍率よりも低い水準で取引されます。株式をすぐに換金できない「非流動性」と、規模が小さいことによる事業リスクが織り込まれるためです。IT・ソフトウェア受託開発の場合、業界の平均的な成長性、参入障壁、属人性の傾向から、EBITDA倍率は4.0〜8.0倍、純資産に上乗せする営業権は実態利益の2〜5年分がレンジになります。

重要なのは、レンジのどこに位置するかは会社ごとの「質」で決まるという点です。同じ営業利益3,000万円でも、下限と上限では株式価値が1.5〜2倍違います。以下の評価ポイントは、その位置を決める要因です。

買い手は誰か

SIer・IT大手(エンジニア確保)、事業会社のDX内製化、投資ファンド(業界再編)、上場を目指すIT企業(規模拡大)。買い手の種類によって重視する点が変わるため、「誰に売るか」で価格は変わります。

評価を押し上げるポイント

  • エンジニアの人数・平均年齢・離職率。買い手は「人月」で価値を測る
  • 特定顧客・特定SIerへの依存度。上位1社が50%を超えると倍率は下限に
  • 自社サービス・自社プロダクトの有無(ストック売上があれば別業種として高く評価)
  • リモート体制・採用力(採用できる会社は買い手にとって希少)

ディスカウント要因

  • キーエンジニアがM&Aを機に離職するリスクを買い手は最も警戒する(ロックアップ条件が付くことが多い)
  • 多重下請け構造の下位にいる場合、単価改善余地が小さいと評価される
  • 社長自身がトップエンジニアで開発を担っていると営業権年数は短くなる

計算例:IT・ソフトウェア受託開発・売上3.00億円の会社

売上高300,000千円、営業利益30,000千円、減価償却費2,000千円、役員報酬18,000千円(承継後の適正水準12,000千円)、純資産90,000千円、現預金80,000千円、有利子負債20,000千円のモデルケースで試算します。

90,000時価純資産+108,000調整後営業利益×3年198,000株式価値(営業権法・中央)単位:千円
純資産+営業権法の中央値まで
正常収益力の調整
営業利益30,000
+ 役員報酬の適正化(18,000 − 12,000)6,000
調整後営業利益36,000
+ 減価償却費2,000
調整後EBITDA38,000
純資産+営業権法
純資産 90,000 + 調整後営業利益 × 2年162,000
純資産 90,000 + 調整後営業利益 × 3年198,000
純資産 90,000 + 調整後営業利益 × 5年270,000
EBITDA倍率法(ネットデット -60,000)
EBITDA × 4.0倍 − ネットデット212,000
EBITDA × 5.5倍 − ネットデット269,000
EBITDA × 8.0倍 − ネットデット364,000

この会社の株式価値の目安は 1.98億円 〜 2.69億円(各手法の中央値)。役員報酬の適正化だけで調整後利益が6,000千円増え、営業権法では中央値で18,000千円分、価値が上がっています。単位:千円。

売却前にできる3つの準備

  1. エンジニア一覧(スキル・単価・在籍年数)を整備し、離職率の低さを示す
  2. 主要顧客との契約を準委任の年間契約に切り替え、ストック性を高める
  3. 自社プロダクトがあれば売上を分けて開示し、SaaS倍率で評価してもらう

準備には1〜3年かかるものもあります。売るかどうか決めていなくても、いまの評価額と「どの要因で下がっているか」を知ることが、承継の選択肢を広げます。

IT・ソフトウェア受託開発の売却でよくある質問

SES主体でも高く売れますか?

エンジニアの定着率が高く、顧客が分散していれば4〜5倍のレンジで評価されます。自社サービスの売上比率が高いほど倍率は上がります。

エンジニア5名程度の小規模でも対象ですか?

対象です。人手不足を背景に、少人数でも「チームごと」の買収ニーズがあります。

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